「今まで誰にも話せなかった」と涙 38年の消防隊員が明かす、被災地の仲間の想いが…【東日本大震災から15年】 By - grapeトレンド編集部 公開:2026-03-09 更新:2026-03-09 仕事東日本大震災消防士災害震災 Share Post LINE はてな grapeトレンド編集部 プロフィール ウェブメディア『grape』で記事を配信する、株式会社グレイプ所属のライター、編集者で構成されたチーム。 Official:grape 幾田さんの活動の原点となった経験は、1999年9月21日に台湾中部で起きた大地震です。 当時、消防司令補だった幾田さんは、救助隊の一員として、現地に派遣されました。 目にしたのは、余震が続く中、今にも崩れそうな建物の数々。 台湾で起きた大地震の現場(提供:幾田さん) がれきの下には、当時の幾田さんの子供と同年代の高校生がいました。 そばでは高校生の叔父が、「助けてほしい」と必死に訴えていたといいます。 しかし、大きな余震が相次ぐ中、二次災害の危険を考えれば、容易にがれきの中へ入ることはできません。 幾田さんは大きなジレンマを抱えながら、救助活動を続けました。 帰国後に負った『見えない傷』 帰国後も、その光景は頭から離れませんでした。 時折、高校生を救出できなかったことに自責の念を感じ、家族に対してきつい言葉を放ってしまうこともあったそうです。 家族からは「怒りっぽくなった」と言われ、自分でも変化を自覚。いわゆる『惨事ストレス』と呼ばれる状態でした。 過酷な災害現場を経験する中で、本来は人の命を救う役割にあるはずの自分が、いつしか他人の心を傷つけるようになっていました。 仲間と研修を受けて気づいた『重圧』 危機感を覚えた幾田さんは、災害現場で活動した職員の心理的ケアを担う『デブリーファー養成研修』を受けることに。 消防職員の『惨事ストレス』に関する知識の学習や、グループミーティングの基礎的な実習などを通して、気づきを得られたといいます。 幾田さんは当時を振り返ります。 日の丸を背負った日本代表の救助隊員として「絶対に死ねない。死ぬことなんてない」と思っていました。 でも研修を受ける中で、日の丸を背負い、必ず生存者を助けなければならないという重圧を抱えていたことに気づけたんです。 この世に完璧な人間などいません。それは、人々の命を守る消防隊員とて同じ。 必要以上の責任感に駆られていた幾田さんの気持ちは、研修を通じて仲間と語り合い、自らを客観視することで、ふっと軽くなったといいます。 消防署内で生まれた『語れる場』 仲間同士で前向きに 台湾や研修での経験から、消防隊員が悩みを打ち明けて、自分を見つめ直す場の重要性を実感した幾田さん。 署内で、隊員同士が自由に体験を語るグループミーティングの場を設けました。 口にしづらい災害現場のトラウマなども、同じ経験をして理解のある仲間同士だからこそ話せるんです。 また、私の過去の大変な経験を聞いた部下は「厳しい隊長でもそうだったんだ」と思えて、前向きになってくれたようですね。 ストレスが軽減されて、次の任務のモチベーションになる、という好循環が生まれるようになりました。 消防隊員の話に耳を傾ける幾田さん(提供:幾田さん) 『3.11』機に傾聴活動が本格化 講師養成講座の受講者も増加 こうした署内での経験を買われ、幾田さんは東日本大震災の被災地に派遣されることに。多くの消防隊員らの心を救ったことから、活動は本格化します。 2016年、幾田さんを含む消防関係者や大学講師らによってNPO法人・日本消防ピアカウンセラー協会が立ち上がりました。 『ピア』とは同じ立場の仲間という意味。同じ現場を経験した消防職員が話を聞き、心の負担を軽減するのが狙いです。 同年の熊本地震後には、熊本県内の消防本部でピアカウンセラー養成講座が行われるなど、これまでに延べ100人近くが講座を受講。 隊員の『惨事ストレス』への支援の重要性が広く認識され始めています。 対話で意識すること 「ひたすら耳を傾ける」 多くの消防隊員の本音に向き合う幾田さん。現在は同協会の発起人の1人として、副理事長を務めています。 対話をする上で、特に大切にしていることがあるそうです。 特に大切にしているのは、『ただ聞き続けること』です。 相手の言葉を遮らず、うなずきや声のトーンにも気を配りながら、ひたすら耳を傾ける。 私自身、精神的にしんどくなった経験があるので、気持ちが痛いほど分かります。 そうやって話を聞いていると、最初は無表情だった人が、帰る頃には笑顔を見せてくれるんです。 現場から退いた後も、言葉にしづらい葛藤を抱える仲間に寄り添い続ける幾田さん。 「心が軽くなった」「ありがとう」と言われ、隊員が再び前を向ける瞬間が、活動を続ける原動力になっているといいます。 ※写真はイメージ 『支える側を支える』 現場で活動する消防隊員に理解を 災害現場で人命救助にあたる消防隊員は、私たちにとって強く、頼もしい存在です。 しかし、そんな隊員たちも1人の人間であることに変わりはありません。 被災地では極限状態の不安の中で、隊員が被災者から心ない言葉を浴びたり、理不尽な叱責を受けたりするケースもあるといいます。 他人になかなか話せない想いを抱えるからこそ、『仲間が仲間の話を聞く』という支えが必要とされているのでしょう。 東日本大震災から月日が経った今も、大災害はいつ、どこで起こるか分かりません。 『3.11』を前に、私たちもまた『支える側を支える』視点を持っていたいものですね。 もしもの時に、お互いに手を差し伸べられる社会であるためにも。 [文・構成・取材/grapeトレンド編集部 しぶちゃん] 1 2 「うちの子だけじゃないはず」 インフルの姉妹、療養中の1枚に「分かる」「こっちが熱出そう」冬の時期に流行しやすいといわれる、インフルエンザ。 高熱やだるさなどの症状が出ることがあり、感染した人は安静にして過ごすのが一般的です。 特に幼い子供が、熱でいつもよりおとなしくしているのを見ると、心配になりますよね。 ... 満員で予約できないイチゴ狩り 2児の母がとった行動に「発想が天才!」「これが親の愛か」「イチゴ狩りに行きたい」と言い出した4歳の娘。予約が取れない中、母が思い付いた方法は? Share Post LINE はてな
幾田さんの活動の原点となった経験は、1999年9月21日に台湾中部で起きた大地震です。
当時、消防司令補だった幾田さんは、救助隊の一員として、現地に派遣されました。
目にしたのは、余震が続く中、今にも崩れそうな建物の数々。
台湾で起きた大地震の現場(提供:幾田さん)
がれきの下には、当時の幾田さんの子供と同年代の高校生がいました。
そばでは高校生の叔父が、「助けてほしい」と必死に訴えていたといいます。
しかし、大きな余震が相次ぐ中、二次災害の危険を考えれば、容易にがれきの中へ入ることはできません。
幾田さんは大きなジレンマを抱えながら、救助活動を続けました。
帰国後に負った『見えない傷』
帰国後も、その光景は頭から離れませんでした。
時折、高校生を救出できなかったことに自責の念を感じ、家族に対してきつい言葉を放ってしまうこともあったそうです。
家族からは「怒りっぽくなった」と言われ、自分でも変化を自覚。いわゆる『惨事ストレス』と呼ばれる状態でした。
過酷な災害現場を経験する中で、本来は人の命を救う役割にあるはずの自分が、いつしか他人の心を傷つけるようになっていました。
仲間と研修を受けて気づいた『重圧』
危機感を覚えた幾田さんは、災害現場で活動した職員の心理的ケアを担う『デブリーファー養成研修』を受けることに。
消防職員の『惨事ストレス』に関する知識の学習や、グループミーティングの基礎的な実習などを通して、気づきを得られたといいます。
幾田さんは当時を振り返ります。
日の丸を背負った日本代表の救助隊員として「絶対に死ねない。死ぬことなんてない」と思っていました。
でも研修を受ける中で、日の丸を背負い、必ず生存者を助けなければならないという重圧を抱えていたことに気づけたんです。
この世に完璧な人間などいません。それは、人々の命を守る消防隊員とて同じ。
必要以上の責任感に駆られていた幾田さんの気持ちは、研修を通じて仲間と語り合い、自らを客観視することで、ふっと軽くなったといいます。
消防署内で生まれた『語れる場』 仲間同士で前向きに
台湾や研修での経験から、消防隊員が悩みを打ち明けて、自分を見つめ直す場の重要性を実感した幾田さん。
署内で、隊員同士が自由に体験を語るグループミーティングの場を設けました。
口にしづらい災害現場のトラウマなども、同じ経験をして理解のある仲間同士だからこそ話せるんです。
また、私の過去の大変な経験を聞いた部下は「厳しい隊長でもそうだったんだ」と思えて、前向きになってくれたようですね。
ストレスが軽減されて、次の任務のモチベーションになる、という好循環が生まれるようになりました。
消防隊員の話に耳を傾ける幾田さん(提供:幾田さん)
『3.11』機に傾聴活動が本格化 講師養成講座の受講者も増加
こうした署内での経験を買われ、幾田さんは東日本大震災の被災地に派遣されることに。多くの消防隊員らの心を救ったことから、活動は本格化します。
2016年、幾田さんを含む消防関係者や大学講師らによってNPO法人・日本消防ピアカウンセラー協会が立ち上がりました。
『ピア』とは同じ立場の仲間という意味。同じ現場を経験した消防職員が話を聞き、心の負担を軽減するのが狙いです。
同年の熊本地震後には、熊本県内の消防本部でピアカウンセラー養成講座が行われるなど、これまでに延べ100人近くが講座を受講。
隊員の『惨事ストレス』への支援の重要性が広く認識され始めています。
対話で意識すること 「ひたすら耳を傾ける」
多くの消防隊員の本音に向き合う幾田さん。現在は同協会の発起人の1人として、副理事長を務めています。
対話をする上で、特に大切にしていることがあるそうです。
特に大切にしているのは、『ただ聞き続けること』です。
相手の言葉を遮らず、うなずきや声のトーンにも気を配りながら、ひたすら耳を傾ける。
私自身、精神的にしんどくなった経験があるので、気持ちが痛いほど分かります。
そうやって話を聞いていると、最初は無表情だった人が、帰る頃には笑顔を見せてくれるんです。
現場から退いた後も、言葉にしづらい葛藤を抱える仲間に寄り添い続ける幾田さん。
「心が軽くなった」「ありがとう」と言われ、隊員が再び前を向ける瞬間が、活動を続ける原動力になっているといいます。
※写真はイメージ
『支える側を支える』 現場で活動する消防隊員に理解を
災害現場で人命救助にあたる消防隊員は、私たちにとって強く、頼もしい存在です。
しかし、そんな隊員たちも1人の人間であることに変わりはありません。
被災地では極限状態の不安の中で、隊員が被災者から心ない言葉を浴びたり、理不尽な叱責を受けたりするケースもあるといいます。
他人になかなか話せない想いを抱えるからこそ、『仲間が仲間の話を聞く』という支えが必要とされているのでしょう。
東日本大震災から月日が経った今も、大災害はいつ、どこで起こるか分かりません。
『3.11』を前に、私たちもまた『支える側を支える』視点を持っていたいものですね。
もしもの時に、お互いに手を差し伸べられる社会であるためにも。
[文・構成・取材/grapeトレンド編集部 しぶちゃん]